がらんどうな彼の瞳に強く惹かれたのだ。
まるで空虚と対面したような感覚だった。底が見えないそれに酩酊しそうだった。
視線はまっすぐとこちらへ向いている。しかし焦点のあっていない彼の目には、自分のことなど入っていないのだろう。彼が見ているのは虚なのだ。
薄らと彼は口元にのみ微笑みを湛える。不揃いな表情に背筋が冷えた。彼の背後にいる後輩達は、この異様な光景に気づかないまま穏やかな会話を交わしている。
足が動かない。視線をそらせない。
不思議と嫌な気分にはならなかった。それどころか段々と彼から向けられる笑みに居心地の良ささえ感じる。ふわふわと足元から脱力していくような感覚だ。
夢心地だった。もう、一生このままでいいのかもしれない。
――おかしい、何かがおかしい。
これ以上は危険だ。頭が変になってしまう。このままでは正常な判断が出来なくなる。
彼から離れなければ、離れなければ、はなれなければ、はなれなければ、はなれなければ、はなれなければ、はなれなければ。
「? 行っちゃった」