「何?これは階段で転んだだけ…」
とってつけたような顔の怪我の理由。そんな嘘、面倒事を起こしたくない無能教師以外は誰も騙されてくれないだろう。
「…嘘だとして、アナタには関係ない。話は終わり?」
嘘だと決めつけている思考が顔に出てしまっていたのか、彼女はボクが何かを言う前にバッサリと切り捨てた。
これが家庭内暴力だったらボクもクラスで隣の席のになっただけの女子に直接問い詰めたりないし、ここまで拒絶されたら引き下がっていたところだろう。
だが、そうではないから、引き下がらない。
ボクはスマートフォンを取り出し、あらかじめ用意しておいた動画を流した。
※
『昨日深夜、アメリカカリフォルニア州アルカトラズ島の軍事施設が何者かに襲撃を受けました』
『この襲撃に応戦した68名の米国兵が負傷、そのうち5名が意識不明の重体です』
『米国政府は「バルログ」と名乗り逃亡した犯人を国際指名手配、世界初の【異能犯罪者】に認定しました』
今朝のニュース動画をひとしきりセリフが終わったタイミングで止める。動画では現地の兵士が撮った身体の節々から炎を吹き出させる怪物のような見た目の犯人の様子が映っていた。それをこのタイミングで動画を止めると仮面の右半分割れていて素顔が半分だけ見れるようになる。
そこにはアジア系の若い女性の顔に口元にある特徴的なホクロが映っていた。
そう彼女、火野キセラと同じ箇所にあるホクロだ。
もちろんこの写りの悪い動画だけが根拠じゃない。今朝これに気づいたボクは少し前に火野キセラの席の周りに落ちていた髪の毛を何本か拝借。それをライターで炙ったところ、『燃えない髪の毛』があったのだ。
犯人の『バルログ』はその名の通り火を操る超能力を持っていた。しかしどんなに火を纏っても火に弱いはずの髪の毛などの部位が焼けることは無かった。おそらく超能力に準じた耐性のようなものがあるのだろう。
その耐性がついた髪の毛が席の周りに落ちていて、その席に座る人物は犯人と同じ箇所にホクロとアザがある。偶然で片付ける方がおかしいだろう。
動画と髪の毛の入った袋を見せると、キセラの目が変わる。
先ほどまでの鬱陶しげな眼差しから肉食獣が狙いを見据えるような眼光に…。
「ふーん…それが本当に私だとして、アナタはどうするつもりなの?」
相手は米国兵68人を倒した人類初の『ヴィラン』。
答えが気に食わなければそのまま燃やし尽くさんばかりの気迫。
そんな彼女にボクは…
ボクは…
※
たまらなく、欲情していた。
「ボクと付き合ってください」
「…は?」
これは「異能犯罪者(ヴィラン)」の火野キセラと「犯罪性愛者(ハイブリストフィリア)」のボクのこの世で最も危険な恋愛物語。