・被験体概要
コードネーム: C-022
適用改造:
新型パワードスーツ (Type-VIII)
洗脳インプラント (第5世代神経制御装置)
戦闘アルゴリズム「ヴァイタス・オメガ」統合
被験体「C-022」は選定時、身体能力・知能ともに最高評価を記録。現在、局地戦用の特化改造を施され、廃墟戦域において有用性を実証している。
・戦闘運用報告
運用パフォーマンス:
被験体は通常兵士10名分に匹敵する戦闘力を発揮。特に大楯を活用した防御行動と精密射撃の組み合わせにより、高い生存率と任務成功率(現時点で100%)を記録。
・戦闘行動:
被験体は命令遂行能力に優れるが、仲間に対する防御行動を優先する傾向が観察されている。これはアルゴリズムによる意図的な設計であるが、感情的要素を伴う可能性がある点に注意を要する。
・整備および課題
パワードスーツの問題点:
Type-VIIIは被験体との適合率が高いものの、長期運用に伴う摩耗が顕著。特に関節部および冷却システムの劣化が進行中。
特殊戦環境での稼働により、メンテナンス頻度およびコストの増大が避けられない。
インプラントの異常兆候:
洗脳装置のモニタリングデータに微細なノイズが記録されている。これにより一部の戦闘状況下で、「過剰防衛」や「ためらい」の兆候が散見される。
特に「仲間を守る行動」において、規定の戦闘アルゴリズムにない反応が発生している点が懸念事項。
潜在リスク:
改造前の記憶や意識が断片的に残存している可能性。これが進行した場合、制御不能リスクが増大する恐れがある。特に任務終了後、静止状態での脳波に不規則な変動が確認されている。
今後の推奨措置
第5世代神経制御装置の再調整を迅速に実施し、ノイズ除去を最優先。
被験体の記憶消去プロセスを強化すべく、第6世代制御装置への移行を計画。
長期戦場配備を制限し、定期的な整備および心理観察を義務付ける。
備考:
被験体「C-022」の性能はプロジェクトの中核を成すものであり、その制御の揺らぎは計画全体の信頼性を損なう重大なリスクとなる。早急な是正が必要不可欠である。
███████ 報告者署名: ████████████████
承認印: ████
―――
冷たい白色灯が鈍く輝く作業室。無機質な機械音と、薬剤が流れ込む静かな液体音だけが空間を満たしていた。銀髪の女性、被検体C-022は金属の拘束台に固定され、長い髪が汗に濡れて乱れ、拘束された身体に貼り付いている。彼女の身体を覆うのは、パワードスーツの下に装着される密着型の黒い基礎ボディスーツだ。滑らかで光沢のあるそのスーツには、制御装置とセンサーが埋め込まれており、彼女の身体は完全に機械の一部として扱われているかのようだった。
彼女の細い身体は微かに震え、抵抗するようにスーツの表面をわずかに軋ませる。それでも拘束具はびくともせず、鋼鉄のような冷たさで彼女の四肢を締め付けていた。
傍らに立つ白衣の男、医師。彼は端末を手に取り、画面を見つめながら無表情で作業を進めている。彼の口から漏れるのは、被検体に対する言葉ではなく、作業を整理するための独り言ばかりだった。
「脳波、依然として不安定。思考信号が干渉を起こしているか……対策として薬剤の量を増やす必要があるかもしれない」
医師は端末を操作し、点滴装置に指示を送った。透明な管の中を薬剤が流れ込み、サリアの身体へと注がれる。薬物が彼女の筋肉を弛緩させ、意識を鈍らせようとするが、彼女は微かに身体を捩り、無言の抗議を続ける。
しかし医師は、その動きすら見ていない。彼の目は端末のデータとモニタリング画面だけに向けられていた。
「アルゴリズムの再適用を開始。神経制御装置は正常……いや、ここにもノイズがある。やはり未調整か」
彼は不快そうに眉をひそめながら、端末の設定を変更する。
サリアの瞳はわずかに開き、苦しげに潤んでいるが、声を発することはできない。薬剤と洗脳の影響で、口を動かす力さえ奪われている。それでも、彼女の中に残るわずかな自由――それは「考える」ことだけだった。彼女は脳波を乱すために必死に思考を巡らせる。過去の記憶、仲間の笑顔、戦場の光景。どれも曖昧で薄れているが、それでも無理やりに感情を掘り起こし、洗脳の波を拒絶しようとする。
その結果、医師の端末には脳波の異常値が表示された。だが、彼はまるで興味を示さない。
「ノイズの増加を確認。処置後に更なる調整が必要か……現在の段階では重大な支障なし」
彼は淡々と結論を下し、再び端末を操作した。
装置が低い電子音を響かせると同時に、基礎スーツのセンサーが起動し、全身を包むような電流が流れ込む。サリアの身体が大きく跳ね、拘束具が金属音を立てる。それでも医師は端末の画面だけを見つめ、記録を取ることに集中している。
「神経インプラントの再プログラムを実行。抵抗反応は予測範囲内。制御波形を強化すれば対応可能だろう」
彼の声は冷たく、単なる事務処理のように響く。
サリアの身体はやがて動きを止めた。微弱な抵抗の最後の痕跡である彼女の脳波は、次第に洗脳アルゴリズムに塗り潰されていく。黒い基礎スーツに包まれた身体は、拘束台の上でただ静かに横たわっていた。
医師は最後に画面を確認すると、淡々と端末をしまい、作業室から立ち去った。白色灯の冷たい光が、未だにサリアの乱れた銀髪と無機質なスーツを照らしていた。彼女の瞳は薄く閉じられ、抵抗の意志は一瞬だけ残されていたが、もはやその痕跡すらも、誰も気に留めることはなかった。