四宮かぐやは、白銀御行の家で二人きりの勉強会をしていた。机には教科書とノートが広げられ、部屋には緊張感が漂っていた。互いに意識しながらも、それを悟られないように必要最低限の会話だけを交わし、静寂が続いていた。
「ここはこう解くんだ…わかるか、四宮?」
白銀が問題の解説をしながら、ちらりと四宮の様子をうかがった。しかし、四宮はどこかぼんやりしていて、時折、小さく咳をする。顔色もいつもより悪い。白銀は心配そうに眉をひそめた。
「本当に大丈夫か?なんか顔色が悪いぞ…」
「大丈夫ですわ。ただ…少し…」
四宮が言い終わる前に、ペンを握っていた手が力を失い、彼女の体が前に崩れ落ちた。
「四宮!おい、しっかりしろ!」
白銀は慌てて四宮の体を支えた。その瞬間、四宮の体が異常に熱いことに気づいた。
「うわっ、めちゃくちゃ熱いじゃないか…!」
白銀は驚きながらも、すぐに四宮を自分のベッドに運んだ。体温計を腋に差し込み、しばらくして表示された数字は38.5℃。高熱に驚きつつも、白銀は冷静さを取り戻し、冷たいタオルを用意して額に当てた。
「無理しすぎだろ、まったく…」
白銀は苦笑いを浮かべながらも、心配そうに四宮の寝顔を見つめた。彼女の額には汗がにじんでおり、頬は熱のせいで赤く染まっていた。いつもは完璧で凛とした姿の四宮が、こんなにも無防備に寝息を立てている姿に、白銀は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「…こんな顔するんだな、四宮って…」
白銀は赤面しながらも、冷たいタオルを絞り直し、額の汗を優しく拭った。濡れた前髪が額に張り付き、白銀は少し躊躇いながらも、それをそっとかきあげた。その瞬間、四宮の白い肌がより鮮明に目に入った。うっすらと汗が滲んだうなじが露わになり、白銀は思わず視線を逸らした。
「…何考えてんだ、俺…」
顔を赤らめながらも、白銀は冷静さを取り戻そうと深呼吸をした。そして、タオルをもう一度冷やして、今度は四宮の首筋にそっと当てた。ひんやりとした感触に、四宮が小さく身じろぎをした。
「ん…」
微かに漏れたかぐやの声に、白銀はドキッとして手を止めた。タオルを当てた首筋は、白く滑らかで、汗が光っている。白銀は自分の鼓動が早まるのを感じながらも、必死に平静を保った。
「…落ち着け、今は看病中だ…」
そう自分に言い聞かせながら、白銀はタオルで四宮の首筋から鎖骨の辺りまで優しく拭った。肌に触れるたびに、四宮の柔らかさと体温が伝わってくる。白銀は息を呑み、焦るようにタオルを離した。
「くそっ、何を意識してるんだ、俺…!」
白銀は顔を赤くしながらも、額のタオルを交換し、熱が下がるまでの間、四宮の傍らに座り続けた。
気がつくと、部屋の中は暗く、窓の外には夜の静けさが広がっていた。四宮はゆっくりと目を開け、見知らぬ天井を見上げていた。
「…ここは…?」
「気がついたか、四宮。」
四宮が顔を横に向けると、白銀が心配そうに見下ろしていた。その姿に、四宮は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに状況を理解した。
「…私、倒れたのですね。」
「ああ。熱が38.5℃もあったんだ。無理するからだぞ。」
白銀は少し怒ったような口調だったが、その目には安堵の色が見えた。四宮は苦笑し、ベッドの上で体を起こそうとしたが、ふらついて倒れ込みそうになった。
「おっと、無理するな。」
白銀はとっさに四宮を支え、そのまま優しく寝かせた。その行動に、四宮の頬が赤く染まったが、それが熱のせいか、照れくさいからかはわからなかった。
「…会長って、意外と優しいのですね。」
「当たり前だろ。倒れたやつを放っておけるわけないだろ。」
白銀は少し照れ臭そうに目をそらした。そんな彼を見て、四宮はふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「じゃあ…私の体、拭いてくれません?」
「…は?」
突然の言葉に、白銀は固まった。
「体がだるくて…動けませんの。風邪を引いた女の子を放っておけないんですよね?」
挑発するような四宮の瞳が、白銀をじっと見つめる。白銀の顔がみるみる赤くなった。
「お、おい、ちょっと待て!それはさすがに…!」
「意識しているんですか?」
「意識とか、そ、そういう問題じゃなくてだな…!」
白銀は完全に動揺していたが、四宮はくすくすと笑った。
「ふふ、会長って、純情なんですね。でも…本当にありがとうございます。私のこと、ここまで連れてきてくれて…」
「…別に、友達だから当然だろ。」
「…友達、ですか。」
四宮の目が一瞬、寂しそうに揺れたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「じゃあ、友達として…もう少し、そばにいてくれますか?」
その言葉に、白銀はしばらく黙った後、小さく頷いた。
「…ああ。俺はここにいる。だから、安心して眠れ。」
「…はい。会長…ありがとう。」
四宮はゆっくりと目を閉じ、穏やかな寝息を立て始めた。白銀はその寝顔を見守りながら、静かに椅子に腰を下ろした。