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七竜暦77年光炎月7週3日
観察地:火竜帝国・炎誓平原火山灰地帯
天候 :晴天 / 気温:25℃
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◆ 新規観察個体データ
個体識別名 :アッシュドレイク(命名者:レイブン・モートン)
推定年齢 :15-20年
性別 :オス
体長 :約30m
危険度 :SS級
特徴的な外見:火山灰を思わせる鈍い灰色の鱗。背骨に沿って点々と残る赤熱した斑点。
◆ 発見経緯
闇の刻25刻、火竜帝国の祝祭準備状況の調査に同行していた若手研究者のアシュラと共に、予定されていた式典会場付近の安全確認を行っていた際、火山灰平原の縁で異常な動きを検知。観察ポストから対象の行動を記録した。
◆ 生態観察記録
▪ 生息環境
溶岩流で区切られた火山灰平原。地熱による温かさと春の訪れが重なり、火山灰の下から生命力あふれる新芽が顔を覗かせている。特に耐熱性の高い赤草(火竜帝国特産の植物)が一面に芽吹き始めていた。対象はこの環境で完全な支配者として君臨している様子。
▪ 特殊能力
驚異的な耐熱能力。観察中、溶岩流に全身を浸した後も何の障害も受けていない。また、咆哮時に吐き出す火山灰と熱気の混合物は、周囲の温度を瞬時に上昇させる効果がある。
▪ 社会性
極めて攻撃的な縄張り行動を示す。観察中、縄張りに侵入した小型の飛行生物を容赦なく捕食。人間の集落方向を定期的に注視する行動が見られた。
▪ 食性
溶岩近くに生息する大型爬虫類を主食とするが、縄張り内に入るあらゆる生物を捕食対象とする。特に春の芽吹きの時期は、栄養を蓄えるために捕食量が増加する傾向。
◆ 考察
新年の祝祭準備が進む中、この個体の活動範囲が祝祭予定地と重なっていることは深刻な問題である。特に、春の目覚めの時期は攻撃性が高まるため、早急な対応が必要と考えられる。しかし、地域の生態系において頂点捕食者としての役割も無視できない。
◆ 保護・管理に関する提言
祝祭の会場変更を強く推奨。あるいは、一時的な祝祭の延期も検討すべき。長期的には、溶岩流を利用した自然の境界線の強化が有効と考えられる。対象の排除は生態系に予測不能な影響を与える可能性があり、慎重な判断が必要。
◆ 現地住民の証言
「先祖代々、私たちはこの地で春を祝ってきた。アッシュドレイクが現れ始めたのは近年のことだ。彼らも春の息吹を感じているのだろう。しかし、我々の文化的儀式と彼らの縄張りが衝突するようになってしまった...」
- 炎誓平原の長老(78歳)
◆ 調査者所感
今回の観察で特に印象的だったのは、アッシュドレイクの眼差しだ。古傷を持つその瞳には、単なる野生の凶暴さを超えた何かがある。春の生命力に満ちた平原と、その上に君臨する原龍。人間の祝祭と原龍の縄張り。二つの世界の境界線が、春の訪れとともに揺らいでいる。
アシュラは「排除して祝祭を予定通り行うべきだ」と主張したが、私にはそれが最善の策とは思えない。戦争と平和の狭間で、我々はどのような選択をすべきなのだろうか。
深夜の観察を終えて宿営地に戻る道すがら、アシュラの熱心さとは対照的に、私は奇妙な倦怠感に襲われた。果てしない戦いと妥協の連続に、時折無力感を覚えることがある。それでも、明日も観察は続く。原龍と人間、双方の未来のために。