満開の桜が風に揺れる午後、二人きりの時間を楽しむために訪れた公園は、花びらの絨毯で優しく彩られていた。私はピンクのブラウスに袖を通し、春の陽気に心も軽くなっていた。
そんな私の横にいるのは、桜色の空気とは対照的に、どこか緊張した面持ちのアルトリアだった。
「…どうかした?」
私が問いかけると、アルトリアは少しだけ頬を染めて目を逸らす。
「いえ。ただ、あなたがその…今日はいつにも増して…愛らしく…」
「…ほんと?えへへ、嬉しいな。ありがと♡」
からかうように笑みを浮かべて、私は軽く指を唇に当ててから、ひとつ、ふっと投げキッスを送った。それは完全に冗談のつもりだった。
けれど。
アルトリアの動きがピタリと止まり、見る間に顔を真っ赤に染めていく。
「……っ、…それは、いけません……っ」
「ふえっ?」
目を丸くする私に、アルトリアは顔を伏せながら、小さく声を震わせた。
「そのような…そのような行為を、無防備にされては……心が、持ちません……」
「えぇ……?」
困惑する私の前で、アルトリアは唇を噛み、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、完全に恋する乙女のそれだった。しかも真剣そのもの。
「……今のは、冗談では…なかったのですよね?」
「いや、あれは……好きだからしたから冗談じゃないけど…ん?いや、ちょっと待って?」
「……っ、ならば、覚悟していてください。今夜は…私からも、礼を尽くしますから……」
ほんのいたずら心で投げたひとつのキスは、どうやら思っていた以上に重たい意味をもってしまったらしい。
風に舞う花びらの中で、赤くなったアルトリアにじりじりと詰め寄られていた。
Fin.