バブルの亡霊か、それともSNS映えの亡者か。
平穏な(?)日常を送っていた友引町に突如として現れたのは、“町おこし”という名の幻想だった。
友引町町内会観光振興部、通称“町観振”は、
「世界的な芸術家の手法を取り入れて町をブランド化しよう!」
という掛け声のもと、選んだのがなんと19世紀末のポスターの巨匠アルフォンス・ミュシャ。
アール・ヌーヴォーの繊細な曲線と花の装飾美にインスパイアされて、
彼らは**『うる星やつら』キャラを町の象徴として描くという壮大なプロジェクト**を敢行。
「ミュシャ風で行こう」
「ラムちゃんは神格化だ!」
「全員花と一緒に飾ればヨーロッパっぽい!」
そして出来上がったのがこのポスターである。
その日、町内会館に貼られた一枚のポスターを見て、青年部員に勝手に任命されたの諸星あたるは言葉を失った。
ラムは百合の花に囲まれ、女神のように宙に浮いていた。
ラン、おユキ、弁天、しのぶ、竜之介、了子、サクラ……
どの娘も、美しい。美しいのだが……
「いや、それ以前に、どこが“観光ポスター”なんだよ……」
背中に走る冷たい汗。
誰も観光地の写真を入れようとは思わなかったのか。
ポスターの横にあるQRコードは花言葉占いサイトに繋がっている。
スキャンしても地図は出ない。出るのは**“友引町に咲くあなたの内面”**。
「オレの内面より、ラーメン屋の場所を教えてくれよ……」
その後、ポスターは町内会館のロビー、バス停の掲示板、果ては友引駅のコンコースや連絡通路にも貼られた。
一部の観光客は「美術展かと思った」と好反応。
が、8割は通り過ぎた。
諸星あたるは今日も考えている。
「これは……アートか? 宗教か? 町内会の狂気か?」