ブルスケルは朝露に濡れた草の中をせわしなく走り回っていた。
触角にはしずくがつき、お腹はグゥと鳴る──
今日こそ柔らかいアブラムシでも見つかるかもしれない。
平和な朝だった……
……地面が揺れ始めるまでは。
最初はほんの微かな震えだった。
だがやがて、それは全身に響くゴゴゴッという低いうなりへと変わっていく。
草が揺れ、ブルスケルは顔を上げ──そして固まった。
人間の少女。
信じられないほど巨大な存在だった。
赤い髪。キラキラ光るメガネ。明るいオレンジ色のシャツ。
笑顔を浮かべながら、まるで山のようにそびえ立つ少女。
彼女の存在だけで、空気が押しつぶされるようだった。
その動き一つ一つが、遅くて、重くて、原始的な力に満ちている。
そして彼は見た──
少女が靴を持ち上げる瞬間を。
巨大なコンバースのスニーカー。
靴底には深く刻まれた暗い溝。
その下には──仲間のラッドがいた。
ブルスケルは叫ぶ間もなく、それは降りてきた。
ベチャッ、パチュンッ。
ラッドは、消えた。
ただ……踏み潰された。
パニックがブルスケルを目覚めさせた。
彼は急いで方向転換し、震える地面の上を必死に走り出した。
だが──遅すぎた。
突然、空が暗くなった。
もう片方の靴が、彼の真上にあった。
ブルスケルは最後の一度だけ、少女の顔を見上げた。
怒ってはいなかった。
ただ、楽しそうに笑っていた。
満足げに。無邪気に。
そして──
視界はすべて靴底で埋め尽くされた。
巨大なゴムのトレッドが迫ってきて、
彼の世界を塗り潰す。
そのあとに来たのは、圧力だった。
パキンッ……ッ!
鋭い痛み。
グシャアアッ!!
──沈黙。
ウテは足を下ろした。「くちゃっ…」
靴の下から、湿ったパキパキという潰れる音が響く。
ゆっくり、でもしっかりと──
虫たちは一匹ずつ、完全に地面へと押し潰されていく。
その音。
その感触。
ウテの胸の中にぽかぽかとした幸せな感覚が広がっていく。
「ん〜♪」
彼女は満足げにため息をつき、
靴をぐりぐりと動かして、残骸を土に擦りつけた。
そのとき、もう一匹のカブトムシが逃げようと背を向けた。
でも、それがもっと楽しくなる瞬間だった。
ウテは素早く一歩踏み出すと、
プチッと乾いた音がして、その虫もあっけなく靴のボール部分で潰れた。
「ふふ…いい音〜。」
数歩歩くだけで、草の上の虫たちはすべてペースト状になっていた。
彼らにとっては終わり。
でもウテにとっては、ただの素敵な朝の始まりだった。
彼女は腕時計を見て、目を丸くした。
「わっ、急がなきゃ! 学校に遅れちゃう!」