【乗るか、反るか。】
——“闘いの美学”は、受けて、倒れ、それでも立つ意志に宿る。
シャワーの音が、壁を叩くように鳴っていた。
熱い水が頭を打ち、肩を走り、鍛え上げた筋肉を伝う。
彼女の目は、鏡の中の自分と交わらなかった。
いや、交わせなかった。
その瞳の奥には、迷いと恐れと、そして希望が混ざっていた。
「おい、できるのか?」
昔、誰かが言っていた。
「戦いってのは、“乗るか反るか”だ。」
別の舞台へ踏み出そうとする者に向けて語られた言葉だった。
それまでとは違う“土俵”に飛び込むことの怖さ。
未知の痛み、未知のルール、未知の敗北。
それでも、そこに挑む覚悟があるか。
乗るか、反るか。
それは単に攻撃を受けるか避けるかではない。
打撃を“あえて受ける”。
倒れて、なお立ち上がる。
その姿を、人は「美しい」と感じるのだ。
AYAKAは思った。
「避けることも、守ることもできる。でも、私は——受ける。」
それが、自分の闘い方だった。
それが、自分が示すべき“闘いの美学”だった。
シャワーを止める。
髪をかき上げ、鏡をまっすぐ見据える。
「乗るしかないだろ。もう私は、降りる場所を捨ててきた。」
痛みも、恐れも、全てを受け入れて、リングに立つ。
それが、自分が選んだ“乗る”という生き方だった。