――耳鳴りが酷い。
世界は炎と煙に覆われ、崩れた鉄骨と瓦礫が視界を埋め尽くしていた。
先ほどまで仲間と交戦していた部隊は全滅し、俺はただひとり、血にまみれながら息を繋いでいた。
肺は焼けるように痛み、腕は感覚を失いかけている。
遠くで爆発の余韻が鳴り響く中、俺は意識を失いかけて――そして、彼女を見た。
煙の帳を抜けて、ひとりの女が歩み寄ってくる。
ピンクの髪は血の色を吸い込み、瞳は灼熱のように赤く輝いていた。
漆黒の装甲スーツは生き物のようにうねり、胸から腹にかけて紅の光が脈動している。
「……生き残り、見つけた」
その声は甘やかで、同時に刃のように冷たい。
女は、まるで舞台に立つ役者のように美しく笑った。
「わたしの名は――アレクシア・オルフェウス」
崩壊の後で
俺は言葉を発しようとしたが、喉から漏れたのは血混じりの咳だけだった。
オルフェウスは俺の傍らに膝をつき、顔を覗き込む。
「人間……まだ死にきっていないのね。いいことだわ」
その笑顔は奇妙な慈愛に満ちていた。だが、そこにあるのは救済ではなく、捕食者が獲物を慈しむような感情だった。
「君は弱すぎる。傷つき、裏切られ、死にかけて……でも、そんな君だからこそ、選べるの」
オルフェウスの指先が俺の胸に触れる。冷たいはずなのに、熱が流れ込むような錯覚に襲われた。
「人間としてここで終わるか、アレクシアとして生まれ変わるか」
勧誘
「アレクシア……?」
俺の掠れた声に、オルフェウスは小さく笑った。
「そう、進化した存在。痛みを糧にし、死を越えて、永遠に笑い続ける者たち。君もなれるのよ」
彼女は立ち上がり、瓦礫に足をかけて空を見上げた。
「人間は脆い。運命に縛られ、すぐに壊れる。だけど――アレクシアは違う。死の代わりに力を、苦痛の代わりに歓喜を手に入れる。君はもう選ぶしかないの」
俺は首を振ろうとしたが、視界は揺らぎ、言葉は喉に詰まった。
確かに、仲間を失い、自分も死にかけている。無力なまま終わるのか。
「怖いのは分かる」
オルフェウスは囁いた。
「でも安心して。わたしが導いてあげる」
境界線
彼女の背後で、黒い機械アームが蠢き始める。
鋭い光を放つそれは、まるで俺を拘束し、解体する準備をしているかのようだった。
「……拒否したら?」
オルフェウスは肩をすくめる。
「ここで血に沈むだけ。でも、君はすでに理解しているはず。人間であることがどれほど脆く、滑稽かを」
彼女の目が俺を捕らえる。
炎の残滓に照らされたその瞳から、俺は目を逸らせなかった。
「君の中の渇望が聞こえる。生きたい。力が欲しい。――ねえ、それを認めて」
オルフェウスは微笑みながら手を差し伸べてきた。
終わりと始まり
俺の指先が震える。
死か、変容か。
その選択を迫られる中、彼女の声が最後の一押しをした。
「大丈夫。痛みは快楽に変わる。涙は光になる。わたしと一緒に、アレクシアになりましょう」
差し伸べられた手は血に濡れていた。だが、その赤は恐怖よりも魅力的に見えてしまった。
意識が闇に沈む直前、俺は――その手を取ろうとしていた。
アレクシア・オルフェウス ― パラメータープロフィール
■名 前:アレクシア・オルフェウス
■身 長:172cm
■体 重:62kg(装甲および機械構造を含む)
■生年月日:西暦2097年8月9日(※人間としての誕生日。アレクシア化後は「再誕の日」と呼ばれる)
■性 格:冷静沈着でありながら、時折甘美な笑みを浮かべる二面性を持つ。慈愛の仮面を被りながら、心の奥底には人間の弱さを嘲笑する狂気を抱えている。
■武 装:
紅脈装甲(コーラル・アーマー):身体表面を覆う流動的な漆黒装甲。衝撃吸収と自己修復機能を持つ。
機械アーム群(オルフェウス・ストリングス):背部から展開する4本の機械アーム。捕縛・切断・注入と多用途。
音響兵装「哀歌」:声帯から発せられる共鳴波により、相手の神経を直接揺さぶり、恐怖や陶酔を引き起こす。
■生い立ち:
人間時代、オルフェウスは戦場で仲間を失い、孤独と絶望に苛まれていた。致命傷を負った瀕死の中で「アレクシア化」の実験に巻き込まれ、機械と融合し再誕を果たした。
人間の記憶は断片的に残っているものの、それを「弱さの象徴」として拒絶している。
現在は“勧誘者”として瓦礫の街を彷徨い、生き残った人間を甘い言葉と恐怖で追い詰め、アレクシアへと堕とすことを使命としている。
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