「アイツら絶対に許さねぇ·····なんで私まで詰めやがったんだ·····」
「私が詰められることは決定事項だったんですか·····?」
トレセン学園近くの公園にて、茂みに隠されるように放置された布袋から脱出した2人。
酷く困惑した顔で尋ねたヴィルシーナに、ナカヤマが胡座をかいて座り込んだ。
「まぁな。本当はシーナだけ詰めて拉致する予定だったんだが·····ゴルシのアドリブで何故か私まで詰められたんだよ」
「私を拉致してどうするつもりだったんですか!?」
「あー·····なんだ·····今日怒鳴っちまったろ。ありゃゴルシ達がしつこくてな·····だからなんだ·····悪かったな」
荒っぽく頭を掻き、バツが悪そうに顔を逸らしつつナカヤマは口を開く。
突然の謝罪で呆気にとられ、しばらく無言の時間が続いたところで、ヴィルシーナが沈黙を破る。
「その流れで私が拉致されるのはおかしくないですか!?私の格好見てください?!」
それはもう声を荒らげて。
ヴィルシーナに促され、じっくりとナカヤマがその姿を観察する。
いわゆる寝間着、その上どこかほかほかしてして煙のようなものも·····。
「·····なんで煙出てんだ?」
「湯気ですっ!お風呂上がりですよ私!?まさかパジャマで外に連れ出されるなんて思わなかったんですけど!?」
「あぁ、ありゃシャンプーの匂いか。通りで甘い匂いが·····よし分かった、私が悪かったからアイアンクローはよせ。お前最近鉄球凹ませたろ。私の頭蓋骨の耐久力は鉄球以下だぞ」
顔を真っ赤に染めたヴィルシーナにこめかみを鷲掴みにされ、両手を上げ降参のポーズをとるナカヤマ。
幸いにも大したダメージを受けることもなく渋々手は離された。
「はぁ·····とにかく事情は分かりましたから·····拉致されたのは予想外でしたが·····怒ってないのなら·····良かったです」
「誤解させて悪かったな」
「いえ·····タイミングが悪かっただけみたいですから·····っくちっ·····」
喋っている途中、可愛らしいくしゃみが言葉を遮る。
やや気恥しそうに顔を逸らした彼女に対し、ナカヤマは気にした様子もなく首を傾げた。
「寒いのか」
「はい、少し·····まさかこの格好で連れ出されると思ってなかったですから·····」
そういったヴィルシーナが身につけているのは黒を基調とした半袖のシャツにハーフパンツ。
室内ならともかく、涼しくなり始めた夜間。
ましてやお風呂上がりとなれば冷えやすい格好であった。
少し観察した後、自分の着ていたジャージを脱ぎ去り、ヴィルシーナへと差し出した。
「ほらよ、これ着とけ。私達身長ほぼ変わらねぇからな。サイズも合うだろ」
「え、でも·····ナカヤマさんも中半袖ですよね·····?」
「私は美浦寮から栗東寮まで走ってきたからな。そんな寒くねぇんだよ。いいから着ときなよ」
「そういうことなら·····お言葉に甘えさせて貰いますね」
ぺこりと礼儀正しく一礼しジャージを受け取ると、慣れた手つきで袖を通す。
ナカヤマとは身長が1cmしか変わらないためか、サイズはピッタリであった。
「問題なさそうだな。んじゃこっちの用も済んだからな、寮に戻るぞ」
「あ、ちょっと待ってください。これ、さっき袋に詰められた時に一緒にいれられてて·····これ、ナカヤマさんにと·····」
「あ?あーそういやあの時なんか持ってたな?」
戻ろうとしたところを呼び止められ、振り返るとヴィルシーナの手には小さな袋が1つ。
何やら棒のようなものが見え、既視感を覚えながらまたナカヤマは首を傾げた。
「それ飴か?変わった形してるが·····市販じゃねぇな。見たことがねぇ」
「はい、昨日妹達とフルーツ飴を作ったんです。ナカヤマさん、飴が好きみたいでしたから·····良かったらどうぞ?」
そういいながら袋から取り出された1本の飴。
苺に飴のコーティングがされ、甘い匂いが漂う。
「そうか、悪いな。せっかくだし貰っとくよ」
「はい、どう───」
ヴィルシーナが言葉を紡ぎかけ、目を見開く。
突然掴まれた手がナカヤマの顔へと引き寄せられ、当然の様に飴を咥えるとゆっくり手が離された。
「どーも。長持ちはしなさそうだが、寮に戻るまでなら丁度いい。ほら、寮に戻んぞ。大丈夫だとは思うが連れ出したのは私だからな、寮の前まで送るよ」
「え?あ、ちょっと待ってください!」
呆気に取られているうちに、ナカヤマは踵を返して歩き出し、ようやく我に返ったヴィルシーナも走ってその後を追う。
(びっくりした·····手の大きさ、あんまり変わらないけど·····)
その途中、不意に触れられた手の温かさを思い出し、自分の手を見てはほんのりと顔が熱くなる感覚を覚えたヴィルシーナだった。
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