或る列車(九州鉄道ブリル客車):
1906年の国有化直前に九州鉄道が発注した5両編成の木造客車で、
3軸ボギー台車を備えた19m級の車体は当時の狭軌鉄道としては破格の大型車。
また2等車のブオロ1号を除き内装にはマホガニー材が使われていたほか、
展望車(社用車:アメリカで言うビジネスカーに相当)のブトク1号にはスタインウェイ・アンド・サンズ製のピアノが置かれていた。
製造はアメリカの鉄道車輌メーカーであるJ.G.ブリル社とされているが、
実際にはブリル社が製造したのは走行関係部分のみで、車体は関連会社のワースン社の手によるものであった。
車体の塗装は、文献によって黄緑色とか、または青色といった記述があり判然としないが、
本イラストでは他国の豪華列車でもよく使われている色と言うことで、青色と想定し作画した。
九鉄がこの車輌を発注した背景としては、自社線管内の観光周遊列車として使用する計画があったとか、
そういった噂がささやかれているが、実際には『どうせ国有化されるならば』と、
買収価格を引き上げて株主への還元金額を多くしようと言う魂胆だったのではないかとも言われている。
結局この車輌が到着する頃には国有化が成立した直後であり、
しかもこの豪華列車を運行するだけの需要がなかったことから、事業用に改造のうえ各地に離散、
その末路は実にひっそりとしたものだった。
ただしこの列車の予備としてか、九鉄はこれと同じ台枠と台車を25両分発注しており、
こちらは当時の国鉄標準客車に似た車体で竣工し、ひいてはその後の日本の鉄道旅客車の大型化に貢献したのである。
また「九州を一周する豪華観光列車」としては後の2013年にJR九州が発注・製造した
「ななつ星in九州」(
illust/41260462)が登場している。
「或る列車」が果たせなかった夢が、実に107年ぶりに成就した…というのは少々大袈裟であろうか?
さて、イラストでは先述の通り、車体色に関する情報が今なお謎のままであることから、
車体の基本色は青、窓枠と扉はニス塗り仕上げと仮定したうえでの作画としている。
牽引機関車は同時期に登場し、のちに国鉄8550形となる154形である。
154形もやはりアメリカ生まれの機関車だが、こちらはスケネクタディ機関車工場、(のちのアルコ社)の製造である。
こちらも国有化後は他の制式機同様黒一色に塗りつぶされてしまったが、
九鉄時代はボイラー部分に酸化皮膜処理がなされており、外観上はブルーグレーの色を呈していたと言う。
こちらもまた、色に関する資料が乏しいのと、客車と連結した際の見栄えを重視する観点から、
ボイラーとテンダーをブルーグレー、屋根を鉛丹色、ボイラーバンドを金色(真鍮磨きだし)とし、
テンダー部分には社紋を描き込んだ。
[253]+[ブオロ1]+[ブオイ1]+[ブオシ1]+[ブオネ1]+[ブトク1]