雑音で満ち、時間がばらばらになった世界は極寒であった。
その世界を温め、慈愛の炎で照らしたのはフィロ=クリソタイロ、何百もの戦車の力を持った優しい戦車の女王であった。
過去の戦禍として吸い出されたものだが、その心は優しく穏やかで、人をいつくしんだ。
極寒の大地を温め、熱帯の海を作ったのは彼女に他ならない。
やがて彼女は聖母のようにあがめられるようになった。
彼女は自分が小さな戦車だったときに赤い髪の男に大切にされたことを想っていた。
そしてその男の面影をもつ魔法使いと子を作った。小さい男の子が生まれたが、それは彼女を
崇拝の対象から遠ざけた。彼女は魔法使いの奴隷だともさげすまれるようになり、
夫である魔法使いの態度も一変した。息子をまもるために、彼女は息子を逃がし、
それによって怒った魔法使いのために彼女は左の目を失い、
彼女の抵抗のために魔法使いは顔を炎の中に失った。
ある集団は彼女を邪な神として崇拝し続け、赤い山に彼女と魔法使いをかくまっているが
それは彼女に魔物を産ませ、巫女たちに彼女の子を産ませ、
暗い火で世を征服するための準備であった。
小さい戦車だったころ
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