名古屋鉄道キハ8500系:
「北アルプス」のサービスアップと、老朽化したキハ8000系(
illust/57928926)の置き換えに当たり、
名鉄ではすでに1000系(
illust/55929729)などで開始されていた特急の120km/h運転などを考慮し、
電車並の高速・高加速性能を持った、カミンズ製エンジン搭載型気動車の投入をもくろんでいた。
奇しくもこの直前にJR東海はキハ80系(キハ82形)の後継形式としてキハ85系を
「ひだ」に投入させており、このキハ85系もカミンズ製エンジンNTA-855R1(C-DMF14HZ)を
装備していたため、性能面では共通の設計とすることになった。
こうして誕生したのがキハ8500系で、キハ8501~8504号が先頭車、キハ8555号が中間車である。
キハ8501・8502号はJRキハ85系との連結も想定した車種で、実際にJR編成と名鉄編成の併結も行われた。
なお、ミュージックホーンは搭載されていないが、これはJR東海の社内規定ではミュージックホーン
などの電子警笛は一切警笛として認められていないためである。
車体の塗装はアイボリーホワイトを基本に窓周りがダークブラウン、腰板にマスタードイエロー、
窓の上下にライトグリーンの帯が入る。
登場以来「北アルプス」として働き続けたキハ8500系だったが、1999年には併結相手だった臨時「ひだ」が
定期列車になったことで、「北アルプス」そのものの存在意義が薄れてしまった。
というのも、両者ともに新幹線停車駅である名古屋を発着する列車であったが、新幹線から「北アルプス」に
乗り継ぐ際は一度改札を出て名鉄の改札を通らねばならず、別途に初乗り運賃を支払わねばならないこと、
会社が違うために乗り継ぎ割引が適用できないうえに犬山線沿線以外では相対的に割高なこと、
特に下り列車は名古屋駅出発が昼前後であり観光客のニーズから外れていたうえ、先の臨時「ひだ」が
定期化されたことで「北アルプス」を使う必然性がほとんどなくなったこと、
電気鉄道として発展を遂げた名鉄が気動車を保有すること自体が運用コストの圧迫につながり、
非効率だったことなどが要因であった。
とどめを刺したのが2000年の東海北陸自動車道・飛騨清見ICまでの延伸開通であり、
これにより名古屋から高山方面へのマイカー利用者が増えたために「北アルプス」の乗客は激減。
さらに名鉄グループ自身も名古屋~高山間の高速バスの運行を開始したため、そちらに乗客を奪われる始末。
「北アルプス」は、東海北陸道によって息の根を止められたのである。
当然、大多数を占める電車に対して5両しかない特急気動車を保有し続けるのは不経済だということもあり、
名鉄はキハ8500系を廃車。しかしまだ製造開始から11年しか経過しておらず状態がよかったため、
ちょうど新型の観光用気動車を探していた会津鉄道に売却されることとなった。
だが、会津鉄道では頻繁に発進・停車を繰り返し、線路の許容最高速度自体も低かったため、
本来高速向きだったキハ8500系にとっては、非常に過酷な条件であった。
ほとんど変速段での走行だったために駆動部の劣化が早まり、結局2010年にAT-700・AT750形に置き換えられて廃車となった。
現在、8501号と8504号が那珂川清流鉄道保存会の手により動態保存されているほか、
8502号と8503号はマレーシアに渡り、同サバ州立鉄道で観光列車として運行されている。