ハザマの霊廟で発生した「茎」のようなもの。
意志を持ち、ハザマ器官本部の、茎の噴出を抑える蓋を破壊するかのように暴れている。
浄化槽はうなだれてぐったりしている。
エデンは暴れる茎を殺すことに怖気づき、拘束するだけに留まった。
エデンにとって、これは愛おしい女王アクルヒ。
アンヤにとって、ただの茎のようなもの。
エデンが真の王と呼ぶその茎をアンヤは折らなければならない。
サンクタスはアンヤの恐ろしい草獣にこっぴどくやられてから、
アンヤに対して敬意を示し、ハザマ器官の一部となっていた。
サンクタスは変わり果てた女王アクルヒの姿を見ると身震いした。
「あれは王の魂を持っていない。ほとんど草獣だ。草獣がいうんだから信じろよ」
「僕にはどうすることもできなそうだ。わかった、お前を信じる」
「これ以上あいつに振り回されるの、嫌だ。だから俺はお前に手を貸すよ、ハザマの王アンヤ」
「ありがとうサンクタス」
サンクタスはアンヤと共闘した。
アンヤは王にテストセレスの鎮痛の剣を突き刺し、痛みなくそこに切り伏せる。
サンクタスは王の肉体の中に閉じ込められたシュガーボックスに語り掛ける。
空洞になった心臓に語り掛ける。
「お前がやりたかったのはアクルヒの命が終わることを無効化すること、そうだよな。
でもお前がしたのは命が終わることを無効化することで、生きることそのものじゃなかった、そうだよな。」
「・・そうだよ・・・ボクは結局一人だ」
「一人じゃない」
サンクタスはまるで姉が妹をなだめるように優しい声で言った。
「ボクはこの、王様の力を使って世界にモンストルムが現れないようにしたかった。でもできなかった。浄化槽だってそうだ。あれはこの世界のものじゃない。あの蓋はモンストルムの一つだ。モンストルムを壊せば・・でも蓋を壊してもその先が溢れるだけだってわかって・・」
「一人じゃない、俺もあいつに振り回された。だからあいつのことよく知ってる。あいつ、寂しがりだったから」
「うん、アクルヒは、ずっと寂しかった」
シュガーボックスは仮死のアクルヒの遺体を抱いたまま大樹となって霊廟の深部にいたのだ。はちみつの匂いのジャムを残しておく深くまで潜っていたのだ。
サンクタスも、シュガーボックスも、アクルヒを、一度は愛していた事は同じだ。
エデンもそうだ。
王は愛され憎まれていた。
真の王を倒したのはサンクタスではない、アンヤだ。その一閃を白き剣で放ったのはアンヤだった。
アンヤは真のハザマの王から王位を奪ったのだ。
エデンはまざまざと真の王アクルヒが倒される姿を、見た。
蓋には、傷一つ付いていなかった。
浄化槽はまた、大きな目を見開いた。
漆黒の回廊は続いていた。
女王の接ぎ木から切り離された可愛い草獣の魂を持った小さな異形は、愛情深いサンクタスと、その宿主である二人の少女たちによって保護されることになった。
「ボクはまるで、新しい命をもらったみたい。お友達もたくさんできた。ボクはアクルヒの残した意思のために戦うよ。獅子の剣として」
「はいはい、まあせいぜい頑張れよかわい子ちゃん」
サンクタスはシュガーボックスにあきれながら、甘いはちみつの香りがするその頭をなでた。